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④ヨーロッパ・アルプス(マッターホルン)
 
 
 
山行日  2019年8月15日(木)~16日(金)
メンバー  佐々木(慶)、非会員(S.Y)×1名
天 候  快晴
行 程  15日(木)
ツェルマット08:45~シュヴァルツゼー09:00~ヘルンリヒュッテ11:00
ヘルンリヒュッテ12:00~偵察~ヘルンリヒュッテ15:30
 16日(金)        
ヘルンリヒュッテ04:20~取り付き04:40、発05:00~ソルベイ避難小屋08:00 発08:30~マッターホルン山頂11:00 発11:20~ソルベイ避難小屋15:30 発16:00~取り付き着20:00~ヘルンリヒュッテ20:10
 朝はゆっくりと過ごして入念に忘れ物が無いかチェックする。15日(木)の天気予報は弱雨から好転した。16日(金)の天候はベストコンディションのまま。体調も悪くはない。3度目のツェルマット山麓駅、すっかり見慣れた風景だ。これまでとの違いは、クライン・マッターホルンのグレッシャー・パラダイスではなく、シュヴァルツゼーで下車すること。ヘルンリヒュッテへは、シュヴァルツゼーから2時間のトレッキングだ。正面にマッターホルン(Matterhorn 4478m)を見据えて進めば、その姿がどんどん大きくなってくる。
快晴の中、ヘルンリヒュッテへ
 11:00ヘルンリヒュッテのテラスに到着する。高価なカプチーノとコーラを注文して行動食を流し込む。ヘルンリ稜をじっくり観察していると、早いパーティーが下山してきた。ガイドとクライアントだろうか、いい笑顔で握手を交わしていた。
 12:00ヒュッテにデポする荷物をまとめて偵察準備を整えて取り付きへ向かう。1本目のフィックス・ロープを登り左へトラバースし、もう1本フィックス・ロープを登ると緩やかな登りとなる。さらに進むとガレの登りになった。どうも、昨年の林・宮田ペアが登ったところのようだ。踏み跡を戻ると小さく積まれたケルンがあった。こちらの方が確かに登りやすいルートだが、ヘッデンだと見逃してしまうだろう。その後、何度もルート・ファインディングを強いられた。「これ難しいな」と感じたら、大概そのルートは間違えている。クライミングテクニックを使うことなく、階段を上るように登れるところが正解ルートなのだ。とりあえずソルベイ避難小屋の見える場所まで登り、14:00ヘルンリヒュッテに戻ることにした。何ヶ所かで迷いそうになったが、15:30概ね順調に取り付きへ戻ることができた。
 ヒュッテでは6人部屋を指定された。シングルの二段ベッドとダブルの二段ベッド。先客が2人、スイス在住のアメリカ人とイラン人の若者で、明日は一緒に登るらしい。国と国の事情は、山では関係ないようだ。後に2人が入ってきて部屋は満杯になった。食事には少し早いが食堂に降りて過ごすことにした。ガイドとクライアントが顔合わせしていたり、談笑するグループがいたりと賑やかだった。食事は、スープとメインにデザートが続く。紅茶は好きなだけ水筒に詰め込むことができる。スープとメインはお代わりもできた。食後は、早々にベッドに潜り込み明日に備えた。
ガイドと客の邪魔するなよ!注意書き
ヒュッテの食堂エリア 見晴らし抜群
 16日(金)、時差か緊張か03:00にスッキリと目が覚める。同室のメンバーが起き出すまでベッドで大人しくしていた。03:50装具を付けザックを持って食堂へ降り、空いた席を確保。Wake Up 04:00とボードに書かれていたが、既にパンやハム、チーズ、紅茶ポット等がテーブルに置かれている。取り急ぎ腹に詰め込んで最終的な出発準備を整えた。ガイド・パティーは早くも入り口に列をなしていた。
ドア・オープンを待つガイド・パーティー
 05:00取り付きからスタート。下見をしていたのでフィックス・ロープの状況は分かっているから不安はない。踏み跡はヘッデンで確認していたつもりだったが、早速ケルンを見逃してガレの斜面まで進んでしまった。かまわずガレを登り明瞭な踏み跡に合流する。何組かの遅いガイド・パーティーと抜きつ抜かれつしながら進んで行く。06:00少し過ぎた頃にソルベイ避難小屋が見えた。昨日の偵察が功を奏し良いペースで登って来られている。幾度か東側への踏み跡を辿りそうになるが、その度にヘルンリ稜側への踏み跡を探し出して東側へ寄りすぎないようにする。そういった踏み跡は、先の方に目をやると残置スリングを見つけることができる。クライムダウンできずに仕方なく懸垂して降りてきた証であろう。
 途中のフィックス・ロープを一本登ると間もなくしてソルベイ避難小屋直下のモズレイ・スラブだった。3級程度の登りが20m程度。
自己設定したソルベイ避難小屋まで3時間をクリアしたので頂上を目指すことにして一息入れる。トイレタイムでは北壁に足跡を投下しておいた。
上部のモズレイ・スラブは5m程度の短いものだった。そこからしばらくは、ヘルンリ稜を北壁寄りに登る。何組かとすれ違うようになった頃、フィックス・ロープ帯の下部「マッターホルンの肩」と呼ばれる場所に到着した。もう少し広い場所をイメージしていたが肩と呼べるほども広くはない。どうにか2~3名が留まれる程度の広さだった。ここでクランポンを付けていた時、上方に目をやると小さな岩がガラガラと音をたてて落ちていた。私達は落石ラインからずれていたので事なきを得たが、もう少し早いタイミングで登っていたら直撃されたかもしれない。少しして、鼻の頭からポタポタと血を流して降りてくる人とすれ違った。しばらくは足下にも何ヶ所か鮮血が落ちていた。
 それからも続々と降りてくる人々とすれ違いながらフィックス・ロープを登っていった。先ほどのこともあり、できるだけ慎重に足を運んで落石させないよう注意した。「フィックス・ロープ帯は腕力勝負」のような記述をネットでよく目にしたが、足を拾えば腕力に頼らなくても登ることができた。2カ所程かぶり気味のところがあるが、短いものなので問題にはならないと思う。
 フィックス・ロープ帯が終われば氷雪面を登って頂上だ。ソロの登山者がダブルアックスでクライムダウンしてきた。グレート・サミッツDVDではガイドが雪をカッティングして歩いて登っていたのだが、どうも様子が違う。雪田というよりも氷面で、それも固い。クランポンを確実に食い込ませて登っていった。
 傾斜が緩やかになり、上方に目をやると聖ベルナールの像が飛び込んできた。その先には、それ以上に高い場所はなかった。11:00マッターホルン登頂。自己設定した6時間ぎりぎりでの登頂だった。イタリア側山頂へも行きたかったが、下山時間のことを考慮して断念した。
山頂直下の聖ベルナールの像
マッターホルン山頂 最高の天気 最高の眺望
 先ほど登ってきた氷雪面をコンテで降りていったが、傾斜が厳しくなったところで念のためスタカットに切り替えた。今から思えば、ここが核心だった。時間はかかったものの、安全を優先させて正解だったと思う。フィックス・ロープ帯は、フィックス・ロープを頼りにフリーで降りた。容易だった数メートルの登りも、切れ落ちた高度感のあるクライムダウンになると途端に難しく感じてしまう。幸い天気は安定しているし、最悪ソルベイ避難小屋でのビバークでも良しと、焦らず確実に下山する方針をパートナーと確認し合った。休憩や水分補給も十分に摂りながら集中力を切らさないように降り続け、ソルベイ避難小屋に辿り着いたのは15:00を過ぎていた。
ソルベイ避難小屋 この小屋の存在は心強い
 既に10時間程度の行動になっていたが、パートナー共々体力的には余裕があり、日没まで時間もあったことから行動を継続することにした。30分程度の長い休憩の後、ルート・ファインディングを慎重にして進んだ。ヘルンリヒュッテは間近に見えているのだが、なかなか近づいてこない。そのうち、第2クロワールだと信じて下っていた場所の様子がどうもおかしいと気づいた。第3クロワールに迷い込んでいたようだ。しばらくして大量の残置スリングに出合う。朝、登りながら目にしていた残置スリングに違いない。少し先には、ヘルンリ稜側へ戻れそうな踏み跡も見つけることができた。コンテを解いて2回の懸垂でどうにか踏み跡に戻れた。そこからは昨日に偵察した区間でもあり、大きく迷うことなく下山した。20:00、時間はかかったものの無事に取り付きに戻ることができた。
 
無事、取り付きへ戻る
 このままヘッデンでツェルマットへ歩いて戻れば午前様。体力的にも限界。ヘルンリヒュッテに一泊をお願いしたところ快く泊めてくれた。食事時間は終わっていたがスープからデザートまで大盛りで提供してくれる。疲れか安堵からか、あまり喉を通らず大部分を残してしまったのが残念。ここで問題が一つ。明朝の始発ゴンドラでもアパートのチェックアウト時間に間に合いそうにない。ヘルンリヒュッテのスタッフに相談したところ、親切にもアパートのオーナーに電話して事情を説明してくれた。できるだけ早くチェックアウトしてくれれば良いとのことで一件落着する。
 翌日、気持ちよく起床してシュヴァルツゼー始発のゴンドラを目指す。不思議に疲れは残っていない。何度かマッターホルンを振りかえると、少しずつその姿が遠くになっていった。
( 文・写真 佐々木(慶) )
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