へのリンク
■  小野湖の水を守る会
産廃処分場予定地の自然と水と山里
 「こんなに美しい、懐かしい山里がまだ残ってたんだなあ」これが現地を最初に訪れたときの私の印象でした。
 宇部・小野田市の水道水源を汚すおそれのある産廃処分場が建設されそうです。
 宇部自然保護協会は「小野湖の水を守る会」(守る会)の中核団体の一つとして反対運動を推進しています。
 私は「守る会」のメンバー達と12月に2回、現地を視察しました。
 産廃処分場建設によって破壊されるかもしれない自然や水、里山の風景、そして地元の人の思い、について報告します。
 建設予定地の正確な場所はまだ明らかにされていませんが、おおよその見当はついています。
 右の地図をご参照ください。
 場所は宇部市小野の宇内地区から美祢市美東町の真名地区にかけての山中です(図1の地図のあたり)。
 宇部側から美東町に向かう490号線を車で北に走り、小野湖を過ぎて数分すると、右手を流れる大田川の向こうに山里が広がります。
 そこが宇内地区です。
 宇内地区の背後には標高200〜300mの山々が連なっています。
 その主稜線から大田川に向かって南西に傾斜する広い斜面に棚田が発達し、家屋が散在しています。
 予定地は大田川から2kmほど離れた標高160m程の主稜線付近です。
 予定地のすぐ裏側(北側)には中国自動車道の美東サービスエリアがあり、そこから山道を歩いて予定地に行くこともできます。
 しかし、私たちは宇内側から入ることにしました。
 処分場の汚水は宇内地区を通って大田川に、そして小野湖に流れるからです。
 宇内地区に入る道路は、490号線沿いの下宇内集会所の手前(小野湖側)100mで右に分岐しています。
 道路はすぐに大田川を渡り、そのまま800mほどで右手に集会所「中宇内むつみ館」があります。
 自治会長さんにお許しを得てここに駐車し、弁当を持って歩き始めました。
 途中、予定地の地権者にご挨拶をしました。
 この方は「土地は絶対に売らん」とおっしゃっています。
 「汚水米という風評が立てば売れなくなる」「業者が私への断りもなく立ち入り、測量した」「連中は危険な物が運び込まれないよう管理すると言っているが、出来るはずがない」と怒っていました。
 最初にお会いした時は私たちを怪訝そうに見ておられましたが、2回目の今回は笑顔で「どうぞ見てきてくれ」とおっしゃっていただきました。
 とにかく宇内の山里は美しい。
 明るく手入れの行き届いた棚田が広がっています。
 山を背に右手(西)には名峰「荒滝山」の大きなドーム、左手(南東)遠方には小野の象徴「平原岳」を眺めます。
 そしてメンバーのだれもが口にしたのは屋敷まわりの美しさです。
 どの家も風格があり、土手や崖をきれいに刈り込み、庭樹や花壇が見事に手入れされています。
 「こんなに立派なナンテンは町にはない」と、庭作りがお得意のメンバーが感心していました。
 林道に入るとまず杉林です。
 間伐や枝打ちがしっかりされていますので、木漏れ日が差し込み、針葉樹林帯でもさわやかな感じがします。
 林道の左右を苔が覆い、緑色に輝いています。
 その中には所々で古い墓石が立っています。
 「昔から変わらぬ山里の暮らしがここにはあるのだろう」などと勝手に思いながら歩きました。
宇内集落。予定地の山を背に南東側を眺める。
遠方右端が平原岳
 途中から広葉樹の雑木林に変わりました。落葉樹が多いためか、木々は冬枯れの枝を絡めて寒そうにしていますが、森は明るくなり、枯葉が厚く山道を敷き詰めています。木立のすき間からため池や棚田が見下ろせます。鳥のさえずりで上を見上げると、青空が広がっています。私たちはますますウキウキしてきました。「この辺りはハイキングに持って来いだ」とだれかが言ったのがきっかけで、1月17日の現地ハイキングの企画が決まったのです。
 雑木林から突然、明るい棚田の谷に降り立ちました。
 こんな山奥に、と驚きました。この上流500mが建設予定地です。
 この谷に降り立った産廃処分場業者も感動したに違いない、それほど素晴らしい所です。
 まず棚田がよく整備されて美しい。棚田だけでなく、水の流れにも感動します。
 メインの水路として、幅1mほどの清流が谷の左岸に沿って流れ下っているのですが、そのほかにも田を囲むように小さな水路がたくさんあります。どれもコンクリートはなく、自然の小川のようです。
 水は澄み、せせらぎ音を立てています。


予定地直下の棚田。
自然の小川のような水路
 流れはときに伏流となって田の下に消え、突然、湧き出してきます。
伏流水が湧き出し、水路に流れ込む所
 ここより下流では田は作られていませんが、湿地帯となって谷は続き、1kmほど下で大田川に合流します。
 この湿地帯にも伏流や水の湧き出し点がいたるところにみられました。
 きっと多くの生物に極めて良好な生息環境を提供しているに違いない、そう思いました。
 この谷の上流には地元の人が「山ノ池」と呼んでいる溜め池があります。
 その土手に上がってみました。湖面は冬空と山を映し、静かで幻想的です
美しい「山ノ池」。対岸の杉の多い山が産廃処分場予定地か。
 どこかで滝の音がします。面白いことにこの池には「滝」がありました。
 下の田に水を供給する人工的なものと思われますが、池から落差5mの岩壁を滝壺に向かって水が荒々しく落ち、まるで自然の滝のようです。
 池の向こうに杉に覆われたピークが見えます。おそらくその辺りが問題の建設予定地です。
 行ってみることにしました。
 池の土手の右端に錠付きの猪防御柵があります。
 地権者の許可を得ておりますので、錠の掛け替えをして柵を通り抜け、林道に出ました。
 林道を歩いて土手の対岸にまわり込みました。
 こちらか眺める「山ノ池」は、枯れた木々の立つ沼地から始まり、次第に深みへと移行しているので、高原の湖畔の趣です。
 再度、感嘆の声を上げました。
 山側に振り返ると、ここからも棚田が主稜線に向かって作られていました。
棚田の右半分はまだ現役。後ろの杉林辺りが予定地か。
 左半分はすでに休耕田ですが、右半分は手入れの良く行き届いた現役です。
 棚田の上の主稜線付近が建設予定地と思われます。
 宇部山岳会のメンバーと予定地近くの杉林に分け入ってみました。
 入り口付近ではイバラが我々の侵入を拒否するように絡みついてきます。
 イバラには申し訳ないが、払いのけ、踏みつけながら、産廃業者による調査の痕跡を探しました。
 以前の調査では別の場所にそれらしきものがあったとのことですが、今回は気づきませんでした。
 少なくとも大規模に事は進んでいないことに少し安心しました。
 稜線上には宇内集落に続く林道がありました。
 以前、守る会のメンバーは美東サービスエリアから別の林道を通ってこの付近まで探索しています。
 この辺りは山奥とはいうものの、林道をはじめ、至る所に人の活動の痕跡があります。
 しかし、それはいたってひかえ目な痕跡です。
 昔から、地元の人々は自然の恵みを受けるべくこの山に入り、作業をし、山や水を大切にし、この地を愛し、神仏や先祖を敬ってきたに違いありません。
 これから始まろうとする産業廃棄物建設はこれらとは全く別次元の行為であると思います。
 腹ぺこになりました。
 棚田の土手に腰をおろし、「山の池」と周囲の風景を楽しみながら、みんなで弁当を食べました。
 地元で買った饅頭を食べ終わってやっと腹の虫が治まりました。そうすると、また、この場所の素晴らしさと産廃処分場に思いが至りました。
 この谷は本当に「水源」の名にふさわしい場所です。
 土壌のフィルターでろ過された雨水は再び幾つもの水滴となって浸み出し、それらが集まって小さな流れとなり、伏流と湧水を繰り返し、湿地や池を形成しながら谷を下り、流れは次第に大きくなり、大田川・小野湖へと成長します。
 地元の方々もここを水道水源として大切に守っておられます。
 この山のどこに「産廃」を埋めることのできる場所があるのでしょうか。
 どこに埋めても産廃は水道水源の水で何年も何十年も洗われ続け、汚染物質は我々の体内に入り続けることでしょう。
 産廃の完璧なチェックや健康への正確な影響評価が現実的には不可能です。
 このことは医者の私でなくても、だれでも想像がつくと思います。
 どうして水道水源地域に産廃を埋めさせることができるのか、県に、というよりも法律家やこの分野の学者に訊いてみたい気がします。
 私はここへ来て本当に良かったと思いました。現場情報を得たからだけではありません。
 自然や里の美しさに感動できたこと、仲間や地元の方々とより親しくなったこと自体が嬉しく、価値のあることのように思いました。
 そして、そのことが建設反対運動を進める上でのエネルギーにもなりました。
 みなさんもぜひ、1月17日の現地ハイキングにご参加いただき、この山里の素晴らしさを堪能していただき、地元の方を含めて参加者同士とのコミュニケーションを深めていただければ幸いです。
宇部自然保護協会の広報誌「自然保護だより」H21年度第10号(H22年1月1日発行)より
(文責 村上知之)
Copyright(C) 2004 Ube Alpine Club All rights reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送