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八ヶ岳旭岳東稜(山梨県北杜市)
 
 
 
日 時  2021年12月28日(火)~30日(木)
メンバー  内田、鹿野(会員外)、山田(会員外)
行程 【12月28日】 晴れ
 山口~防府東IC~長坂IC~美し森駐車場7:45~林道~地獄谷8:50~出合小屋10:00~旭岳東稜取付確認~天狗尾根取付確認~出合小屋

【12月29日】 晴れ後曇り
 出合小屋5:30~旭岳東稜取付~五段の宮10:15~旭岳15:15~ツルネ東稜分岐16:00~ツルネ東稜~出合小屋17:30

【12月30日】 小雪
 出合小屋7:20~地獄谷~林道~美し森駐車場9:00~諏訪~岡谷IC~防府東IC~山口
 当初、この年末は北アルプスに行く計画を立てていたが、予報では強い寒波が入るとのこと。かなりの降雪が予想されたため、北アルプスに比べると影響が少ないと思われる八ヶ岳に転進することにした。以前から行ってみたいと思っていた八ヶ岳の東面だ。
 12月28日】 晴れ
 前日の夜に山口を発ち、刻一刻と雪で高速道路の通行止めの範囲が広がる中、ぎりぎりのタイミングで何とか積雪地帯を突破し、6時頃美し森駐車場に到着した。少し仮眠をとり、明るくなってから出発。
 林道の積雪は5~10cm程度か。トレースは薄っすらと雪で覆われている。本日の一番乗りだ。1時間ほど林道を歩き、地獄沢へ入ると、次第に雪が増えてくる。テープに導かれて、次々に現れる堰堤を越え、さらに1時間ほどかけて、出合小屋に到着した。
 さすが東側は人が少ない。小屋内にはテントが1張あるのみで、我々も空きスペースにテントを張らせてもらう。準備をしてから、今回の目的である旭岳東稜の偵察へ。小屋から30分ほどで目印となる「ツルネ東稜」の看板を発見。その左手の尾根の末端から取り付けば良さそうだ。
 明日の取付箇所は確認できたが、まだまだ時間があるので、あわよくば3日目に登りたいと考えている天狗尾根も偵察することに。こちらもトレースがないので、少し迷ったが、間もなく標識とテープを見つけることができた。時間に余裕があるので2050m付近まで上がってみる。天狗尾根は一般登山道ではないはずだが、しっかりとテープが付けられており、まず迷うことはなさそうだ。
天狗尾根から見た旭岳東稜
 その後、沢の横に発達した氷瀑で少し遊んでから、小屋に戻る。途中、カモシカと遭遇するというハプニングもあったが、早めに宴会開始。
 夜通し運転による睡眠不足もあり、つららをロックにしたジンと焼酎+αで、夕食に何を食べたか思い出せないほど酔って三人とも見事に撃沈してしまった。
 【12月29日】 晴れ後曇り
 それでも翌朝ちゃんと起きるのが我々のえらいところ。まるで記憶はないが、目覚ましをセットしていた。4時起床で、猛烈な二日酔いに無理やり朝食をつめ込んで、予定から30分遅れの5時半に出発した。暗い中をヘッドライトの明かりを頼りに進む。昨日、トレースを付けていたおかげで、迷わず尾根の末端に到着。いよいよ旭岳東稜に取り付いた。
 明瞭な尾根を忠実に辿る。積雪は、はじめは脛までだったのが、高度を上げるにつれて次第に増えてくる。途中、両側が切り立った細尾根を越えたり、トラバースしたり、さらには傾斜のある草付きを木登りで越えたりと、なかなか悪い箇所があった。今回はロープを出さなかったが、メンバーによっては確保が必要だろう。
細尾根を進む
 高度を上げるにつれ、前方右に旭岳東稜上部の岩稜が見えてきた。左手には権現岳東稜のバットレスが存在感を放っている。ふと気がつけば、登っている尾根の沢を挟んだ右隣に小さな尾根が伸びているのが目に入った。その尾根の上部を目で追うと、どうも旭岳東稜上部の岩稜に続いているように見える。
 地図で確認すると、旭岳東稜の中間部分は尾根がのっぺりとして分かりにくい。ひょっとして登る尾根を間違えたのではないかと不安になったが、結論から言えば、間違ってはいなかった。振り返って考えても、分かりやすい尾根を辿るので、ルートを間違えるような箇所はなかったように思う。

 積雪は、上部では腰までとなり、多いところでは胸ラッセルとなった。天気は良いが、気温は低い。今のところ風はないものの、午後から天気は下り坂とのこと。できれば午前中に稜線に抜けたいところだ。

 3人交代でラッセルするが、上部の岩稜が見えてから、なかなか近づかない。ようやく右手の岩の基部に着くと、事前に調べた光景とは明らかに違う。ここは五段の宮ではないようだ。
 それでも、安定した場所があったので、ここでロープを出した。鹿野がトップで岩を右から高巻く。厳しい木登りで1ピッチロープを伸ばしてから、各自で草付きを越えると、ようやく前方に五段の宮が現れた。
 なるほど、最後は右手の岩に寄らずに、正面の沢から雪面を越えるのが本来のルートなのだろう。予想よりも積雪が多かったため、出発から五段の宮まで5時間が経過していた。
前方右手に見える岩稜に誘われてしまった
 改めて五段の宮をじっくり眺めるが、見れば見るほど不安になる。傾斜のきつい箇所を除けば、雪がべったりと付いており、思っていたよりホールド・スタンスが乏しい。本当にこれを突破できるのだろうか。
五段の宮
 しかしながら、ここまできたら行くしかない。いよいよ登攀開始。1ピッチ目は鹿野が登る。下部にリングボルト、中間にハーケンがある以外は、人工の支点はない。鹿野は上手に灌木で支点を構築しながら、一段目は右から、二段目は左から越えていった。お見事!渾身のクライミングだ。
 記録では1ピッチ目は三段目の先で切ることが多いようだが、二段目を登ったところの残置にもう一つハーケンを打ち足し、終了点を構築していた。フォローはスピード優先のためA0で登ったが、それでも難しかった。
五段の宮の一段目を登る鹿野
 2ピッチ目は内田。三段目は正面から越える。支点が取れないため、中間でしばらく逡巡するが、最後は思い切って身体を上げる。
 中間ではグローブをしたハンドジャムが効いた。三段目を越えたところに灌木とハーケンで終了点が作ってあるが、3人には足場が狭い。
三段目を登る内田
 そのまま四段目は足元が切れた右から越えて、尾根に乗り込んだ後、五段目を正面から越えた。50m一杯ロープを伸ばしたところに立木があったので、ピッチを切る。
 終了点の手前はすっぱりと両側が切れ落ちているが、しっかりと雪が付いているため怖くはなかった。
五段目の岩稜
2ピッチ目の終了点
 とりあえず、五段の宮をクリアしたので一安心。2ピッチ目を登っている途中、振り返ると2人組が五段の宮に着いたところだった。
 出合小屋で出会ったパーティーだと思うが、彼らは全装備で登るそうだ。また、ヘリが飛んでいるのに気づいたが、後になって聞いたところ、天狗尾根で遭難があったということだった。

 このあたりから稜線にはガスがかかり、時折、雪煙が見られるようになる。かなりの強風が吹いているのだろう。思っていたよりも時間がかかっており、予報通り天気が崩れてきた。
 時間は13時半。気持ちは焦るが、この調子だとまだ時間はかかりそうだ。

 ここからは立派な雪稜となるので、雪庇に気をつけて進む。3ピッチ目は山田、4ピッチ目は内田が登る。相変わらず細尾根が続くが、これまでと比べると問題はない。
 5ピッチ目は山田が、岩壁を左上するバンドに沿って進み、岩の向こう側に出た。最後は目の前の旭岳のピークまで1ピッチ。ここで驚いたことにピークに人の姿がある!?このコンディションで、どこから登ってきたのだろうか。
旭岳のピーク手前
 山頂に向かうと、稜線に出た途端、猛烈な風に見舞われ、思わずよろめいた。
 とりあえず3人で握手を交わすが、風は止む気配がなく、視界はあるものの山頂はガスに覆われている。日没まであと2時間くらいか。五段の宮に取り付いてから5時間がかかっていた。この場所でこの風は危ないと本能が告げており、一刻も早く安全地帯へ入りたい。

 山田によれば、先ほどの人影は権現岳東稜を登った2人組とのこと。下山もラッセルを覚悟していたので、先行がいたことは勇気づけられた。ありがたくトレースを使わせてもらい、おかげでツルネ東稜分岐まで1時間かからずに到着。
 樹林帯に入ると、先行の二人がいたので、トレースのお礼を言う。稜線上での強風には危険を感じていたので、ようやく安心できた。それにしても、旭岳東稜よりも難しいと言われる権現岳東稜を今日の雪で登るとはかなりの強者だと思う。

 あとは、日暮れと競うようにツルネ東稜を下り、ぎりぎりヘッドライトなしで出合小屋に到着。
 戻ってみると、小屋の中にはテントが4張、外にも3張とかなりの人数となっており驚いた。暖かいテントの中で、無事に帰ってきたことを3人で喜び、今日もお酒を飲んでしまった。
 【12月30日】 雪
 昨日、他のパーティーに聞いたところによれば、遭難のため天狗尾根に入らないよう警察から自粛要請があったとのこと。また、天気も下り坂で、夜の間に20~30cmの降雪があった。
 あわよくばと思っていたが、天狗尾根は諦めて、さっさと下山することにする。他のパーティーも動きが遅いようだ。

 テントを撤収し、来た道を帰っていく。行きと同様、帰りもトレースがない上、夜間の降雪のため、道が分かりにくい。テープに導かれながら、林道まで戻れば、雪も少なくなった。振り返れば、山には厚い雲がかかっていた。

 時間が早いので、風呂に入ってから、諏訪まで行って高速に乗る。諏訪でもかなりの雪が降っていたが、どうやら帰りは通行止めの心配はなさそうだ。無事に家に帰るまでが山行なので、安全運転で山口に戻った。
 初めて入った八ヶ岳の東面は西側に比べると人が少なく、静かな山行が楽しめる。
 また、旭岳東稜は、五段の宮までの長いアプローチ、テクニカルな岩稜登攀、その後の細い雪稜歩きなど、非常に充実した山行内容を味わうことができ、面白さは八ヶ岳随一と言われるのも納得できる。
 特に今回の雪の状況でも、無事に登ることができたことは自信につながった。同行の二人に感謝したい。
 
( 文:内田、 写真:鹿野・内田 )
    
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