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伯耆大山三鈷峰北東面Aルンゼ
 
 
日 時  2021年3月7日(日)
天 気  晴れ
メンバー  内田、鹿野
行 程  山口~米子~大山寺5:40~下宝珠越6:20~剣谷~阿弥陀滝7:15~東谷出合7:35~AルンゼとBルンゼの分岐8:20~稜線9:40~三鈷峰山頂~勝間ケルン~元谷~大山寺11:20~山口
 先月の剣谷から三鈷峰西面ルンゼの登攀が面白かったので、次は東谷から三鈷峰に登りたいと思っていた。最近、気温の高い日や雨が多いせいで、まだ雪があるかどうか不安だったが、今回、三鈷峰の北稜又は北東面ルンゼの2つを検討し、現場の雪の状態を見て、どちらを登るか判断することにした。
 気温の上がらないうちが勝負だと思い、朝4時起床の予定を立てるが、飲み過ぎて目を覚ましたのは4時45分。慌てて朝食を詰め込み、準備をした後、予定から10分遅れで大山寺を出発した。
二日酔いと闘いながら、下宝珠越を経て剣谷に入る。昨夜の雨は山では雪だったようで、一面が薄っすらと新雪で覆われていた。剣谷の水流が雪の下から出ているが、両岸には結構な雪が残っている上、朝の冷え込みのおかげで良く締まっている。阿弥陀滝の落口まで快適に進み、落口から少し右岸側にトラバースして立木で懸垂下降した。
阿弥陀滝の横を懸垂で降りる
 そのまま剣谷を東谷との出合まで下る。出合から見る北稜に雪はなく、取り付いた場合、猛烈な藪漕ぎが予想される。ブッシュの稜線は登りたくないと思いながら、一応、北東面ルンゼの様子を見た上で判断することにした。
 そのまま東谷を遡上するが、こちらも水流が出ているので、右岸と左岸の歩きやすいところを選んで歩く。雪渓の下には大きな空洞ができている箇所もあり、ドキドキしながらそっと上を越えた。
東谷を進む
 出発から2時間半あまりが経った頃、突然、威容を誇る三鈷峰の立派な姿が現れた。眼前にそびえる真っ白な山塊は神々しいまでに美しく、そして厳しそうだ。上へ伸びる2本のルンゼもはっきりと確認できる。
 ここで鹿野と作戦タイム。北稜を登るか、それとも北東面ルンゼを登るか。目の前の素晴らしい光景に、既に二人とも北東面ルンゼのことしか頭にないので、北東面ルンゼ2本のどちらを登るかを相談する。なお、ここでは2本のルンゼについて、東谷から三鈷峰に向かって右側をAルンゼ、左側をBルンゼと呼ぶことにする。
三鈷峰北東面ルンゼ
 Aルンゼは三鈷峰1516の山頂とそのすぐ北のピークの間に真っ直ぐ突き上げるルンゼで、見るからに傾斜がありそうだ。一方、Bルンゼは1516の山頂とその東のピークの間の鞍部に延びるルンゼで、Aルンゼよりも緩やかそうに見える。また、Bルンゼは過去に登った記録があり、ある程度、様子も分かってはいる。
 しかし、Aルンゼをじっくりと観察すると、確かに傾斜はあるが、きれいに上まで繋がっており、今日の雪の締まり具体であれば、何とか登れないことはなさそうだ。記録がないことに幾ばくかの不安と興奮を覚えながらも、鹿野と認識を一致させて、Aルンゼを登ることにした。
真っ直ぐ伸びる北東面Aルンゼ
 東谷本筋から離れて、北東面ルンゼに向かって沢を詰める。さらに約1100m付近のAルンゼとBルンゼの分岐を右へ。下部は傾斜が緩やかで、ルンゼにはまだ陽が当たっていないため、締まった雪は思わず笑いが出るくらいに歩きやすい。両岸が狭まった箇所を抜けると、視界が広がった。この時点では、大した傾斜があるように見えなかったのだが。
Aルンゼ下部を詰める
 三鈷峰は半分から上が樹氷に覆われ、真っ白となっている。そこに陽が当たり始めると、バラバラと樹氷が落ち、大量の破片がルンゼの中を流れてきた。時折、落石も混じるので、前方に注意しながら進むが、突然、こぶし大の岩がブーンと音を立てて落ちてきた時には肝を冷やした。
 高度を上げるにつれて、氷結した雪面はますます固くなり、下から見たよりも傾斜がきつく感じるようになる。フロントポインティングとダブルアックスで登るが、あっという間にふくらはぎが悲鳴を上げるので、筋肉を騙しながら進んだ。
青空に向かって登る
 場所によっては、ガチガチのアイスとなっている箇所もあり、ピックの先端しか刺さらない。この雪面と傾斜では滑落すれば、絶対に止まることはないだろう。集中力を切らさないよう、何度も自分に言い聞かせて気を引き締める。
 時折、ルンゼを横に走るクラックが口を開けており、気持ちは悪いが、クラックをスタンスに使ってレストすることができた。ふと隣の鹿野を見ると、改めて結構な傾斜であることを実感。風がなく、陽に照らされるので、暑くて堪らないが我慢するしかない。
少し水平がズレているが上部はかなりの傾斜となっている
 上部でもガチガチのアイスと少しだけ緩んだ雪面が入り混じり、相変わらず緊張の登攀が続く。空が大きくなるにつれて、周囲に素晴らしい景色が広がっていくのを感じるが、それをじっくり眺める余裕はなかった。
 それでも、次第に近づく稜線に励まされ、前爪の蹴りこみとピックの打ち込みにも力が入る。最後まで力を緩めることなく、無心になって手足を動かし、ついに山頂から北のピークへの稜線に出ることができた。
 ようやく安全地帯に到達できたことにホッとして、思わず全身の力が抜ける。Bルンゼとの分岐からスタートして標高差約400mの登攀が終わった。
稜線まであと少し
 北稜も北西稜もこの尾根に繋がっているのだろう。背の低いブッシュが生えた尾根を歩くとすぐに山頂に到着。天気は快晴で、南東方面には見事な雲海が広がり、まるで城郭のように烏ヶ山が浮かんでいる。
 先ほどまでの緊張感から解放されて、ようやく素晴らしい景色を楽しむことができた。お互い無事に山頂に立てたことに、鹿野と固い握手を交わす。
 時間もたっぷりあるので、人気のない山頂を満喫してから下山を開始。今日は一般登山道もガチガチで、初心者には厳しいコンディションだ。山頂から南側にもトレースはなく、剣谷上部のトラバースはアイスバーンとなっていた。上宝珠越から元谷へ。駐車場に戻ると春の陽気だった。
トラック図(三鈷峰北東面Aルンゼ)
 三鈷峰北東面Aルンゼは、タイミングとメンバーを選ぶが、山頂までダイレクトに抜ける非常に気持ち良いルートだと思う。
 今回、雪の状態とメンバーの力量、気温の上昇リスクを考えて、ロープは使用しなかったが、その時々の状況に応じたリスクマネジメントを心がけたい。
 
(文:内田、 写真:鹿野・内田)
    
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