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境谷(宮崎県市房山系)
 
 
日 時  令和2年7月23日(木・祝日)
天 候  晴れ
メンバー  内田、鹿野(会員外)
行 程  山口~西米良~駐車地点~渡渉5:10~境谷入渓5:15~本谷分岐9:10~立岩谷分岐9:30~11:10二ツ岩11:25~一ツ瀬川13:55~駐車地点
 普段、沢登りをしている西中国山地にも良い沢は多いが、たまには大きな沢を遡行したい。この度、久しぶりに九州は宮崎の沢に行くことにした。

 前日夜に山口を出発、人吉経由で宮崎県西米良村へ向かう。今回の目的は市房山系の二ツ岩に突き上げる境谷だ。4年前に遡行した山之口谷の二つ上流側に位置しており、『九州の沢と源流』では「沢登りのすべてが濃縮された、九州を代表する谷の一つ」とされる。
 予定通り4時半に起床。今日はいきなり渡渉から始まる。前日、現地に到着する前、ダム放流中という電光掲示があり、嫌な予感がしていたが、一ツ瀬川に降りると何だか水量が多い。流されないよう必死に泳ぎ、無事に対岸に渡った。最初の滝は登れないので、左から巻いて境谷に入る。いよいよ遡行開始だ。
 次々と滝が現れるが、基本的には水線を進む。滑らかな黒い岩はいかにも滑りそうだが、意外にもフリクションは良く、快適に滝を越えていく。また、ほとんどの滝が釜を有しているが、思ったほど水は冷たくない。おまけに水質は抜群だ。
滑りそうだがフリクションは良い
 その後、すぐに出てくるCS25m斜滝は左のルンゼから高巻いた。トラロープが垂れているが難しい。全般的にこの沢は滝を登るよりも、巻きが悪い。どこから巻くのか、ルートを判断する力が必要だと感じた。
 その上には幅広10mが立ちはだかっているため、小さく左岸側から巻こうとするが、すぐに行き詰まった。不安定な場所でロープを出して、鹿野がトップで登る。手がかりのない岩と泥の塊、フワフワとした草木を使って、器用に悪場を突破した。お見事!自分としては、今回の遡行でここが一番気持ち悪かった。
 安心する間もなく、前方には50mの大滝が目に入る。足早に近づき、滝の前に立つと、物凄い瀑風に身体がよろめいてしまうほど。恐ろしいほどの迫力だ。まだまだ序盤なのに、これだけの滝が現れることに境谷の奥深さを痛感させられる。もちろん登れないので左岸から高巻いた。
50m大滝
  次々と出てくる滝を楽しみながら越えていくと、10m滝が現れる。これも登れそうにないので、左岸側から高巻いた。すぐ上には12m滝と8m滝が続き、まとめて巻くことになる。この高巻きもルートが分かりにくい。途中、釘が連打してある朽ちた丸太があり、その奥のピンクテープに助けられた。
次々と現れる滝を越えていく
 その後も滝が連続する。綺麗な水と戯れながら滝を越えていくと、突然、空が開けた奥に存在感のある大滝が現れた。これまた大きい。試しに飛沫の末端に当たろうとすると、少し触れただけで吹き飛ばされた。これも左岸側から高巻いたが、アケビのツルを使って岩壁を越えた。
40m大滝
 40m滝の落ち口のすぐ上には、大きなCSの5m滝が待っている。CS右を越える。その次の8m滝ではロープを出して左岸から登った。右手のルンゼからバンドに上がってトラバース。滝の落ち口に出ると、なかなか高度感がある。続く6m滝は右岸を越えた。既にいくつ滝を越えてきたか分からないほどだ。
8m滝は左岸のルンゼを登って落ち口へトラバースした
 間もなく現れる幅広10m滝は右岸を越えると、左から二つの支流が流れ込む。上流側の支流には崩壊の跡が見られた。そして、すぐに10m滝が現れる。
 内田は簡単そうな右岸から越えたが、一体どこを登ったのだろうか、鹿野は左岸側を越えていた。その後、11m滝を左岸側のブッシュから越えると本谷との分岐となる。ここで時間は9時過ぎ。順調と言えるが、標高は950m程度。入渓地点が360mなので、まだ半分も来ていない。ここは右俣へ。

 水流の流れる巨石の中をボルダームーブで越えていく。一ノ瀬川対岸の石堂山に突き上げる樋の口谷と似たような雰囲気だ。間もなく20分ほどで立岩谷との分岐に出た。なるほど左俣には大きなスラブが見えているので、つい立岩谷に誘われそうだ。
 ここは右俣へ。もう大きな滝はないだろうと思っていたが、すぐに現れる12m滝は上部が悪い。緊張を切らさずに水流の中を越えた。
12m滝
 沢床は一枚岩となり、やがて滑滝に発達する。突然、目の前に見事な大きさのスラブが広がった。これが有名な80mスラブだろう。下からでは全景が見えないほどだ。このような見事なスラブが沢にあるとは本当に自然は奥深い。真ん中から取り付き、水流の右を登る。支点が取れないので気が抜けない。
80mスラブを登る鹿野
 その後、沢幅は次第に狭まり、頭上が緑で覆われてくる。もう遡行図でも滝はなさそうなので、早く稜線に出たいが、乳酸の溜まった足は重く、ペースが上がらない。予想はしていたが、1300mを突き上げるのはきつい。
 ようやく周囲が開けると、柔らかな草原の斜面と点在する岩が目に入ってきた。稜線も近いのに、水も流れている。最後にこんな素晴らしい空間が待っているとは。桃源郷とはよく言ったものだ。
桃源郷
 美しい景色を堪能しながら、桃源郷の中を進む。最後に緩やかな登りを頑張ると、ちょうど二ツ岩のピークに出た。鹿野と固い握手を交わす。天気も良く、最高の気分だ。東を見ると、日向灘だろう海が見えた。
 小休止してから下山開始。今回、二ツ岩から南東に延びる尾根を降りる予定だ。しかし、すぐにブッシュが出てきて尾根が判然としなくなった。道なき道をGPSで確認しながら、藪漕ぎ、急斜面を繰り返し、1307mを踏む。
 気温も高く、じわじわとさらに体力が奪われる。その後、ピンクテープに助けられ、ようやく渡渉地点のすぐ上に出ることができた。疲れた身体には下山もうんざりするほど長かった。
トラック図(境谷)
 一ツ瀬川でクールダウンをした後は、以前、石並川で知り合った日向市のNさんのところへ。前回お世話になった後、「天然うなよし」というお店を開き、忙しい毎日を送っているそうだ。
 今回、Nさんとの話が盛り上がっている中でも、次々とお客さんが来店されていた。基本的には予約制だということでお断りされていたが、自分たちの相手をするためではないかと何だか申し訳ない気持ちになる。またもや素晴らしい料理をご馳走になり、お酒が進んだところで、自分は早々に撃沈した。久しぶりにNさんとお話ができたが、好きなことをやって生きている人は魅力的だ。Nさん今回も本当にお世話になりました!

 やはり宮崎の沢は素晴らしい。西中国山地の沢と比べると標高があるため、体力的にはきついが、数え切れない滝を越えてピークを踏んだ時の達成感は何物にも代えがたい。いつか桃源郷で一夜を過ごしてみたいものだ。
(文:内田、 写真:鹿野・内田)
      
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